柿の木日記・
アウトリーチプログラム

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2018年5月17日(木)

【インタビュー】大池容子さん(子どものための演劇ワークショップ講師)

「子どものためのワークショップ2018 夏休み演劇ワークショップ」の講師:大池容子さん(劇作家・演出家・うさぎストライプ主宰・アトリエ春風舎芸術監督)に、ご自身の中高生時代のことやワークショップの内容などについてお話をうかがいました。

Q:どんな中学・高校時代を送っていましたか。

A:中学の頃は暗黒時代でした。台本や、メール・マガジンのコラムに、小学生の頃に受けたイジメの話を書いたことがあるのですが、中学の頃はそういうネタになるような出来事はなかったはずなのに、ずっとしんどかったですね。

当時は陸上部に所属していて、3年間、短距離走をやっていました。走ることはそんなに好きじゃなかったんですが、「なにかしなければ」という焦りがあって入部しました。ある時、同じ陸上部員に「走ってて楽しくなさそうなのに、何で陸上部入ったの?」と聞かれ、「あ、みんな楽しいから陸上部に入ったんだ。楽しいから走ってるんだ……」と、びっくりして。自分が楽しいと思うことは何なのか、その時はよく分かりませんでした。

でも中学3年生の修学旅行の時、「旅のしおり」にその日あった出来事を、なんとなく書いていたんです。それを友達が盗み見て「文章書くの上手いんだね」と言われ、そこから調子に乗って毎日、日記を書くようになりました。それがストレス発散というか逃げ場になっていた気がします。でも、それ以外に好きなこともなく、自己肯定感が全く持てないのに他人からどう見られているかが気になってずっと怯えていました。

中学を卒業して、いわゆる「高校デビュー」をして……。これまでの自分を捨て去ろうと、同じ中学の子がほとんどいない高校に入学しました。私服OKの学校だったので、入学式は金髪にミニスカート、ルーズソックスという出で立ちで臨みました。そういうファッションが好きだったわけではなく、ただ「なめられたくない」と思って……。

1年生の時の文化祭でクラス劇の台本を書いて、人と何か作るという経験をしました。それが成功体験というか、とにかく楽しい経験だったんです。部活は書道部に入りました。うちの高校の書道部は、文化祭の時に、舞台の上で踊りながら大きな紙に字を書くという公演をするんですが、その演出を考える参考になるかもしれないと、演劇を観に行くようになったんです。それで「あれ?なんかすごく面白いなあ」と思って……。ちゃんと演劇と出会ったのは、この時でしたね。

Q:高校生の時に演劇に出会ったのがきっかけで、演劇に携わろうと思ったんですね?

A:そうですね……。でも今思えば小学生の頃に、学芸会で上演するお芝居の台本を書いたことがあって。父親が漫才の台本を書く仕事をしていたので「台本って知ってる!書けるかも!」と立候補したんです。よしもと新喜劇を毎週テレビで観ていたから、お芝居にも馴染みがあったのかもしれません。でも3歳くらいから高校2年生までずっと、将来は漫画家になると決めていて、高校生の時は美大を受験するための予備校にも通っていました。でも書道部の発表のために観に行った、劇団新⭐︎感⭐︎線の『髑髏城の七人』、宮藤官九郎さんの『鈍獣』、マーティン・マクドナーの『ピローマン』が本当に素晴らしくて。今、思い出しても名作ばかりで本当にラッキーな出会いだったんですが、「演劇いいなあ」という思いがどんどん強くなっていって……。美大にも落ちたので、演劇学科のある大学に進むことにしたんです。

Q:数多く劇団がある中、なぜ「青年団」に入ろうと思ったのですか?

A:大学の演劇学科に入ったものの、高校演劇もやっていなかったので演劇のことがよく分からなかったんです。そこで「勉強しないと駄目だ!」と思って、色々な本を読みました。それで、平田オリザさんの『都市に祝祭はいらない』を読んで「面白いな。こういうことを考えている人がいるんだ」と思い、青年団の『上野動物園再々々襲撃』と『鳥の飛ぶ高さ』を観て……。でも本を読んで想像していたものよりも、なんだか普通のお芝居だなあ、と思ってしまって。『上野動物園〜』は観て泣いたりするぐらい面白かったんですが、当時はちょっと思っていたのと違うな、という印象でした。

その後、青年団の演出部というものがあるということを知り、演出部の人が何をやっているのか観たいと思って、鴻上尚史さんの『トランス』を東京デスロックの多田淳之介さんが演出した公演を観に行きました。それがめちゃくちゃ面白くて、多田さんのワークショップに参加したんですが、「こんなに分かりやすく、演出家の考える演劇の理論を体験することができるのか!」と感動したんです。オリザさんも「自分は演劇をこう考えている」ということを分かりやすい言葉で書いている。大学に入った頃から、自分は説明能力が足りないなあと感じていたので、青年団に入れば鍛えられるのではないかなあ、と思って入団しようと。たしか入団試験を受ける条件が「青年団の公演を3本以上観ていること」だったので、『東京ノート』を観に行ったら、これがもう本当に、どストライクで……。「こんなに素晴らしい作品が世の中にあるんだ」と感動して、迷わず入団試験を受けましたね。

Q:10代、20代、30代で大池さんの作品に変化はあるでしょうか。また作品を作る上で大切にしていることはなんですか。

A:23歳で青年団に入り、24歳で自分の劇団を旗揚げしました。その時は、今やっているワークショップのプログラム(嘘を旅するワークショップ)とは真逆に思えるかもしれないのですが、「嘘を減らそう」と思っていました。なるべく舞台の上に嘘がない方がいいと思っていて、劇場は劇場という空間でしかないから美術セットは置きたくない、役名は付けずに俳優さんの名前をそのまま使う、というように……。あとは身体に不毛な負荷をかけるということをやっていました。例えば、動かない壁を全力で押しながらセリフを喋る、進まない自転車をこぎながらセリフを喋る。ほとんどそういうことだけをやってましたね。実際に壁を押したり自転車をこいでいることは嘘ではなく、俳優の身体が疲弊していくのは本当のことだから、嘘のセリフがその疲れていく身体に乗ったらどうなるのか、ということをとにかく実験していました。負荷の不毛さは、「どうせ死ぬのに生まれてきて、生きていくって不毛なことだな」という自分の人生観とも繋がっているんですけど。でも、その演出の方法って、ある程度どの作品でも置き換え可能で、戯曲から生まれた立ち上げ方じゃないなと思って。違うことをしたいと考え始めたのが、ちょうど30歳になるかならないかの頃でした。

それから明らかな嘘から演劇を始めてみたらどうなるだろう、と思うようになって。朝、起きたら頭に斧が刺さって死んでいる主人公とか、バージン・ロードを歩く花嫁のお父さんが2人いるとか、一番最初に「これから嘘が始まりますよ」と提示してみたらどうだろうって。やってみると、その嘘から普遍的なこと、真実のようなものにたどりつくことって全然可能だなあ、と思ったんです。そして俳優の嘘の扱い方にもいろいろな可能性がある。例えば、序盤は自分で言っていることをどこか信じていないように喋る、とか。観ているお客さんもその俳優と一緒に疑うところから始まって、ちょっとずつ信じてみようと思えたりとか……。嘘のつき方で、色んなことができるんじゃないかな、と思ったんです。

10代の頃は……大学で学生劇団をやっていましたが、それはそれで暗黒時代です。あんまり演劇のこと考えずにやっていたんじゃないかと……。恋愛とか人間関係とか、そういうことでずっと悩んでました。

Q:うさぎストライプのテーマ「どうせ死ぬのに」は衝撃的だと思うのですが、今うかがったような考えからでてきたということでしょうか?

A:阪神大震災があったからかもしれませんが、小学生の頃、「いつか死ぬ」ことが急に恐くなりました。誰でも思い当たることかもしれませんが、自分が死ぬことより人が死ぬことが恐くて。小学3年生から4年生くらいの時は、親や友達が死んだらどうしよう、と考え続けていましたね。大人になってからも、どこかで「いつか死ぬ」ことを考えながら作品を作っているなあ、と改めて気付いたんです。鈴木忠志さんが「世界は病院だ」とおっしゃっていますが、「私はこのように世界を見ている」ことを自分だったら何と言うだろう、と考えた時に「どうせ死ぬ」なのかもしれないな、と。でも「のに」って付けたいと思ったんです。どうせ死んでしまう、生きていくことはすごく不毛だ、でも、じゃあどうする?ということを作品の中で描きたいんです。

Q:ネガティブな言葉のようだけれど「生きる」ということを感じます。

A:どうせ死ぬのに、それでも「生きる」ということですね。

Q:中高生というのは自分を表現したいのに上手く表現することができない多感な時期。そんな中高生とどんなワークショップの時間を過ごし、どんな作品を作っていきたいですか?

A:中高生対象に「嘘を旅するワークショップ」というプログラムをやることが多いのですが、これは日常からちょっとずれたこと、ありえないことを楽しんで遊んでみるワークショップです。日常からちょっとずれたことを遊ぶためには、その日常がどういうものかを考えることが大切で。中高生が大人の役をやる、おじいさんの役をやる、女性だけど男役をやるというような大変な嘘をつかなければならないことがあると思うのですが、その嘘にたどりつくためにどうすればいいかという目的の方ばかり見ていると、しんどくなってしまうと思うんです。そうではなく今ある自分の体や演じる空間がどうなっているんだろうということを今一度観察し、その発見の中から嘘に使えるものを探っていく。一見回り道のようですけど、面白い発見があるかもしれない、というワークショップです。

Q:自分から目をそらしたいんだけれど、自分と向き合ってしまう、という感じですよね。

A:例えば自分が中高生の時に「自分のことを考えて、向き合って」と言われても無理だったなあと思って……。他者の目を通すとか、人じゃなくて物を観察してみることによって、観察したものを基に嘘をついていく。例えば(ペンケースの汚れを指さしながら)「これは昔、友達が振り回した時に飛び出たインクで汚れたんですけど……」とか、まあ嘘なんですけど、ペンケースの汚れなど本当のことから嘘をねつ造するということをやってみる。自分のことを考える時に、観察の仕方や発見のルートは人それぞれ違うと思うので、物を使ったり空間を使ったりすることで、ちょっとした気づきの一端になればいいな、と思っています。それに、嘘そのものを無責任に楽しむのも、時にはいいんじゃないかなと思うので、無責任に大嘘をつくことをまず楽しんでもらえたらな、と。

Q:中高生にとっては大嘘が楽になりそうな気がします。最後にワークショップの参加者にメッセージをお願いします。

A:私が演劇を作る上で大事にしていることや、面白いと思っていることを共有してもらってみんなで作品つくりができればいいな、と考えています。ワークショップに関係ないことでも話しかけてもらえるような関係が作れたら嬉しいですね。一緒に作品を作る同志としてお集まりいただけたらな、と思います。

(2018/4/25 パーシモンホールにて 聞き手:事業課 濵)

【ワークショップ開催情報】
後半プログラム「夏休み演劇ワークショップ+発表会」
前半・入門ワークショップ経験者による夏休みの集中講座(4日間+発表会)。
より本格的な内容を学び、作品制作に取り組み、最終日に発表する。

【日時】平成30年7月24日(火)~7月27日(金)14:30~18:30/7月28日(土)発表会(14:30開演予定・入場無料)
【会場】めぐろパーシモンホール 小ホール
【定員】30名(先着順に受付)
【対象】中学生・高校生
【講師】大池容子(劇作家・演出家/うさぎストライプ主宰/アトリエ春風舎芸術監督)
【費用】3,000円(初日に精算)
【応募方法】eメール 又は 郵便はがきにより先着順に受け付ける。
【応募先】めぐろパーシモンホール「子ども演劇ワークショップ」係

主催:公益財団法人目黒区芸術文化振興財団(めぐろパーシモンホール)
協賛:公益財団法人北野生涯教育振興会
協力:有限会社アゴラ企画(こまばアゴラ劇場運営)

詳しくは、下記をご覧ください。

子どものためのワークショップ2018 演劇ワークショップ参加者募集