柿の木日記・
アウトリーチプログラム

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2018年5月30日(水)

【インタビュー】スズキ拓朗さん(子どものためのダンスワークショップ講師)

「子どものためのワークショップ2018 ダンスワークショップ」の講師:スズキ拓朗さん(チャイロイプリン主宰、振付家、演出家、ダンサー)に、ご自身の小中学生時代のことやワークショップの内容などについてお話をうかがいました。

Q:どんな小学生・中学生生活を過ごしていましたか。また、習い事はしていましたか。

A:僕が小学生・中学生の頃は、女の子に告白することしか考えていませんでした(笑)。後は、体育、図工、音楽、家庭科といった主要科目以外のことばかりやっていました。勉強は正直ダメでしたね。親が教員なんですが5教科はほんと苦手で、ただ自分の得意なことはスポーツだったりしたんで、5教科以外はすごく頑張っていました。身体を動かすのがすごく好きでした。

習い事もサッカー、バスケット、野球、水泳、空手みたいな感じで結構習っていました。小学校4年生からは部活でバスケットボールを選んで、中学校も最初バスケ部に入りました。習い事としては、日曜はサッカー行ったり、朝一は野球をしたりしていました。学校終わってすぐスポーツの習い事をしていました。親がそういうことをやらせてあげたい、と思っていたんだと思います。スポーツが好きになっていたので、初めの話に戻りますが「モテるためにはどうしたらいいか。取柄はスポーツしかない。足を速くして、運動会では1番になる。」とかそういう目標を立てて頑張っていました。

Q:ダンスや演劇に携わる前は、どんなことに興味を持っていましたか。

A:実は僕保育士になりたかったんですよ。なので高校まではそのつもりで普通科に通っていました。大学も保育士の大学に推薦で受かっていたので暇していたんですね。そんな頃親が元々演劇をやっていて「地元にミュージカル劇団が来るよ」と教えてくれたので見に行ったら、ちょっとネジが外れちゃって、、、。元々演劇とかには興味ありませんでした。人前でふざけたり、女の子にモテるために先生のモノマネしたりとか、そういうのは男の子は誰でもやるじゃないですか。けど演劇部の人たちが「あ・い・う・え」とかやったり、ダンス部の人たちがロビーとかで踊っているのを見ていたりして、「なんか恥ずかしいなあ。この人たちすごいな」と思っていました。「絶対自分はやらないだろうな」と。でも本物のプロのステージを見たら、「あれっ、ちょっとなんか僕が思っていたのと違うぞ」と。ダンスとか舞台には人を変える力があるんだとその時思って、教育に興味があったんですけど、僕は5教科苦手ですから向いていないんじゃないかと思って。むしろ自分は体で何か色んな人に気付いてもらえる何かができるんじゃないかな、と思ったのが大学に入る前だったんですね。それまではダンスも演劇も興味は全くありませんでした。

Q:地元に来たミュージカル劇団が、拓朗さんのその後の人生を変える運命の出会いだったんですね。

A:そうですね。その年に市民参加型のオペラがあって「それに参加しよう」と親と一緒に参加しました。初芝居は奴隷の役でした(笑)。

Q:演劇に触れたのは地元に来たミュージカル劇団がきっかけということですが、ダンスに初めて触れたのはいつですか。

A:それが実は大学を卒業してからなんです。高校を卒業してから演劇の学校に行きました。蜷川幸雄さんが学長の学校にいて、シェイクスピアとか芥川龍之介とかそういった文学を勉強しながら、声の発生などの訓練をして役者として頑張っていました。役者としてのトレーニングとしてバレエやジャズダンス、タップダンスを週1回くらいはやっていましたけど、あまり興味は無かったです。俳優になるためにどうしてダンスをやらなくちゃいけないのか意味を分かっていなくて、ずっと4年間くらい謎のままやっていました。

蜷川幸雄さんのカンパニーにいる時、蜷川さんの「お前体が利くんだからダンスとかの方がいいんじゃないか」って言われて、「これはきっと俳優に向いてない」と言われているんだと思って、「あれ~」と思ってショックを受けたんですが、でも「そうかもしれない」と思ってダンスを始めてみました。そこから、演劇祭みたいなものに自分のダンス作品を提出したりとかして、そうしたら意外と楽しくなってきて・・・。そんな時にピナ・バウシュさんを見て、演劇っぽいしでもダンスだ。出ている人たちはバレエをちゃんとやっていて、「あ~、なるほど。こんなダンスの世界か。」と思いました。

一番最初にお話しした「スポーツが好きだった」「体を動かすのが好きだった」というところで言うと、ダンスに行くのは必然だったのかなあ、と思います。

Q:ダンスに行くための道筋がちょっとずつ整ってきた感じですね。

A:そうですね・・・。でも、3才からずっとバレエを習っていたとか全くそういうことではなく、運動神経だけで何とかやっているという感じです。

Q:運動神経が良くないとダンスは難しくないですか。

A:まあ、それもあると思いますが、最近やっとアラベスクとか覚え始めて・・・。

Q:やっぱり基礎もしっかりやりつつ、という感じなんですね。

A:基礎は全然やっていなかったんです、授業で週1でやっていたくらいで。その時々で、ダンサーなどの踊り方を真似たり・・・。だから、僕の先生はほぼYoutubeなんですけどね!

Q:20代、30代と年齢を重ねていく中で、作品は変化してきたのでしょうか。また、作品を作る上で大切にしていることは何ですか。

A:20代ってやっぱり人間関係がぐちゃぐちゃになるじゃないですか。感受性も敏感だし、喧嘩したり別れたり振られたり。だから、すごい暗い気持ちになりやすい。だから20代前半の作品て、裏切られたりしたことを「こんちきしょー」ていうパワーで作っていたりしていたから、ちょっととんがった作品が多かったです。踊り方もちょっとやさぐれた踊り方だったかもしれません。でも20代後半になって、今もう30代ですけど、そういうことはどうでもよくなってくるんですよね。昔のことを忘れつつあって。でも、もちろんあの時のバネが無かったら今のこのパワーにはつながっていないんですけど。これまでのように誰かを怒ったり喧嘩をしたりするよりも、もっと大切にしなきゃいけないものがあるから、いい意味で丸くなっていく、大事にするものが変わってきていますね。稽古においても20代前半は人を否定することが多かったんです。例えば「それは違うんじゃないかな」とか「そうじゃなくてこうしてほしい」とか、自分の意見をすごく言う感じでした。でも今は逆ですね。自分の意見をいかに言わずに人の意見をいかに聞こうと思うか、ということを意識するようにしています。でも、その方が実は早いんですよね。

Q:いつの時点でそう変わったんでしょうか。全く真逆ですよね。

A:自分1人が頑張っても駄目だっていうことに気付いたんですよね。それは多分コンドルズっていうカンパニーに出会ったり、ピナ・バウシュもそうですし、カンパニーというものに出会っていくと、ずっと一緒にやっている仲間で大事にするもの、そして得られるものの方が僕は楽しめるんだな、って。元々僕はバスケ部にいたりサッカーをやっていてチーム戦を経験していました。チームって『スラムダンク』でも言っていますが、一人じゃ勝てないじゃないですか。皆でやらないと勝てない。そしてそれはやっぱり演劇でもダンスでも一緒だな、と言うことが30代になってやっと分かったんです。今後またどう変わるかは分かりませんが、今は昔と違ってやっぱりそこにいる人との創作に重きを置くということを大事にしています。

Q:「子どもダンスワークショップ」と同時期に実施される、めぐろパーシモンホールの「子ども演劇ワークショップ」は10年以上継続して実施しています。その中にはリピーターも数多くおり、継続していく中で創り上げられるもの、出来上がる関係性などもあります。中には俳優になって頑張っている元参加者もいます。その時のワークショップでの出会いによってその後の人生が変わっていくこともあります。特に中学生くらいの年代は、自分を表現することが難しい多感な時期です。そういった年代を対象にしたダンスワークショップを実施することは非常に難しいことだと思いますが、ワークショップを行っていく中で大切にしていることは何ですか。また、ワークショップの中でどんな時間を参加者と過ごし、どんな作品を作っていきたいですか。

A:僕が衝撃を受けた時とは逆に、僕が今ワークショップをやっている側なので下手なことは出来ないですよね。誰がどう影響を受けて、何を始めちゃうかなんてことはホントに分からないから。

中学生って結局恥ずかしいんですよ。僕も経験ありますけど。それを無理矢理「恥ずかしがるな!」と言うのも意外と上手くいかないんですよね。「恥ずかしい」と思うことは別に悪いことではないので、ちょっとずつちょっとずつ、恥ずかしいというところを楽しめるようにしたいですよね。結局席替えなんかも「え~、嫌だ嫌だ、この子の隣り」とか言いながら楽しいんですよ。だからその「恥ずかしい」って言うのを無理矢理こうやるとかじゃなくて、そこに気付けることができることがまずは第一歩かなあ、と思っています。

中学生って将来の事をちょっとずつ意識し始めるじゃないですか。そしてもし高校で何か道を悩む時に「そう言えば中学の時にああいうことをやったな」っていう1個の感覚として「楽しかった」っていうことがまず残ることがいいなあ、と思うんですよ。「あの時あれやってホントきつかったし嫌だったな」て思うとそれで終わりなんですけど、「何かあれは楽しかったな。なんで楽しかったんだろう。じゃあ演劇やろう!」って思う人もいれば、「あれはきっと人との触れ合いの中でああいう動きをして助けたから、僕は介護に向いているんだ」とか、何かそういう楽しい思い出にならないと恐らくいい財産にならないなと思うんです。だからとにかく僕も中学生っていうデリケートな心の持ち主の子たちとワークショップをやる上では、楽しく遊ぼう!っていうのを大事にしたいかなと思います。そしてそう思って来てほしいです。遊びに来てほしいです。

「発表しなきゃいけない」じゃなくて、「楽しいと思うことを今からもう1回やりますよ。見て、楽しいでしょ」っていうところにいけないかな、と思っています。

もちろん、ほわほわ~という感じだけじゃダメです。やるところは本気でやろう!ってやるんですけど、どっちみちそれも楽しいっていう方向になりたいなとは思います。

Q:最後に、これから参加してくれるであろうワークショップ参加者にメッセージをお願いします。

A:ダンスワークショップと聞いて少したじろぐ人もいると思うんですけど、とにかく体を動かすことは健康にいいですし、心の健康にもすごくいいことなので、遊びに来る感覚で臨んでください。おじいちゃん、おばあちゃんも喜ぶし、発表と聞くと緊張すると思うんですけど、緊張も面白いのでぜひ騙されたと思って、体の健康作りと思って来てくれるといいかなと思います。待ってます!

本日はありがとうございました。夏のワークショップ楽しみにしています。よろしくお願いいたします。

(2018/4/26 三鷹市芸術文化センターにて 聞き手:事業課 濵)

<ワークショップ成果発表会>
【日時】2018年7月27日(金)11:45開場/12:00開演/12:40終演(予定)
【会場】めぐろパーシモンホール 小ホール
【出演】公募による小学4年生から中学3年生までのワークショップ参加者
【料金】入場無料(直接会場にお越しください)

主催:公益財団法人目黒区芸術文化振興財団(めぐろパーシモンホール)
協賛:公益財団法人北野生涯教育振興会、アペックス株式会社