柿の木日記・
アウトリーチプログラム

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2020年12月28日(月)

指揮者・原田慶太楼氏にZoomで迫る!インタビュー②

2021年1月30日に開催するフレッシュ名曲コンサート「読響×原田慶太楼×小井土文哉」で当ホールに初登場する指揮者・原田慶太楼氏へのインタビュー。今回は、1月30日のプログラムについてのお話です。

共演する読響について

コロナでなくなってしまった公演もあるので、実際に共演したのは3回です。
読響は日本のトップオーケストラのひとつですし、読響が素晴らしいのは、「読響のサウンド」というものを持っているところだと思います。
言葉では言い表しづらいのですが、「“読響”を振っているんだな」という感じがあります。
演奏家たちもとても優れた方々ですし、すぐに変化ができるオーケストラだと思っています。
自分がスコアからもらうインスピレーションを素直に伝えると、素直に音にして会場に響かせてくれるマジシャンのようなオーケストラですね。

今回のプログラミングについて

僕は、何かしら意味を持たせたプログラミングが好きなんです。
今回は、最初にグリーグのピアノ協奏曲をやることが決まっていました。
他に何を持ってくるかを考えた時に、まずは作曲された1868年に注目しました。
1868年に関係のある作曲家を探すと、その年に亡くなったロッシーニにつながった。
それでロッシーニの「セビリアの理髪師」序曲を選びました。
このオペラが1816年の作品なので、グリーグの作品番号16にも関連付けてみたり。
また、チャイコフスキーが1840年生まれ、グリーグが1843年生まれなので、同時代の作曲家というつながりもあります。
それから、このロッシーニの序曲はE major〈ホ長調〉で終わるのですが、グリーグのA minor〈イ短調〉とは(調性の主音同士が下方に)5度離れています(*5度離れた調性同士は構成音が1音異なるのみなので、近しい関係にある)。
ロッシーニの序曲で E majorの空気を浴びた後に、2曲目のグリーグの協奏曲がA minorから始まるのを聞くと、しっくりと落ち着きが感じられるのではないかと思います。
休憩後のチャイコフスキーはE minor(ホ短調)で、ピアノ協奏曲のA major(イ長調)で終わった余韻が残っているところにすっと入ってくる(A〈イ〉から5度上がE〈ホ〉)。
このコンサートは「E→A→E」という流れなんです。
僕はコンサートのプログラミングは、レストランのコースメニューと同じだと思っているんですね。
まず前菜を食べて、メインを食べて、デザートを食べる。先にデザートがくるとおかしいし、サラダ、ステーキと来て最後がお饅頭だったら、美味しいお饅頭であってもおかしいですよね。
全体でつながりがないと、お腹も心も変な感じになりますよね。
たとえお客さん自身が、今回のように「E→A→E」という調性の関連性があったことを知らなかったとしても、なんとなくつながりを感じたり、よいコンサートだったなという印象が残るだけでもいいと思います。
また、普通は交響曲が最後であることが多いですが、協奏曲が最後にあった方がよいと考えた場合には、交響曲→協奏曲というプログラムを作ることもよくありますよ。
このように裏技のようなことをしたり、背後に秘めたメッセージやテーマを意識してプログラムを作っています。

ロッシーニ: セビリアの理髪師 序曲

ロッシーニはオペラを40曲以上書いていますが、「リサイクル・マン」と呼ばれるぐらい自分が書いたオペラのメロディを何度も使っていました。
この序曲を使うのも3回目で、あまりオペラ自体とは関係がないのです。
このオペラの初演がひどかったというエピソードが残っているのですが、猫がステージに入ってきちゃったり、木の上でギターを弾いている人が落ちちゃったり(笑)。
あまりにもひどい状況だったので、ロッシーニも休憩の時に帰ってしまったとか。
初演はこんな風にハチャメチャだったけど、いまだに演奏されていますし、僕は素敵なオペラだと思います。

グリーグ: ピアノ協奏曲

シベリウスもそうですが、グリーグは作曲家としてのアイデンティティを見つけたかった作曲家なのだと思います。
当時は自国の民族音楽を引用して作品を作るというのがトレンドだったわけですが、みんなが知っている自国の民謡の旋律を使わずに、それらしいけれど自分のメロディを生み出すことにチャレンジしていたのがグリーグ。
作曲されたのが1868年なのですが、改めてみると「こんなに昔の曲なのか」といつも驚く。
19世紀後半から20世紀前半の曲にも聞こえるし、タイムレスな作品だと思います。
グリーグが民族音楽にとらわれず自分らしさを追求して作曲したからなのではないでしょうか。

チャイコフスキー: 交響曲 第5番

チャイコフスキーという人はどんなに素晴らしい曲を書いてもあまり自信を持てなかった人間だったのではないかと思います。
交響曲第4番があまりにも成功したので、そのあとに書く交響曲に自信が持てない状態で10年が経ってしまって、やっと1888年の夏、避暑地で書けたのがこの第5番の交響曲です。
チャイコフスキーはこの作品で「運命」をテーマにしているのですが、全楽章でひとつのテーマを使ったというのは、彼の初めてのチャレンジでした。
この曲の初演は聴衆からはすごく好評だったんだけど、評論家たちの評価は良くなかった。というのも、チャイコフスキー自身の指揮が下手で演奏が悪かったから…。
聴衆からは名作だという評価を得たのに評論家からは不評だったこともあって、当初この作品に対する本人の評価も低かったのです。
この「運命」というテーマには、自分自身への疑念など、本人が精神的に不安定な人生を歩んでいたことも詰まっているのだと思います。
第5番の交響曲といえば、まず、ベートーヴェンの第5番の「運命」が思い浮かびますよね。
ベートーヴェンの第5番は「運命がドアをノックする」というように、いい運命か悪い運命かはわからないけれど何かが「間近に来た」という感じですが、チャイコフスキーの場合は、最後の最後で運命から解放されるというテーマが秘められているような気がします。
チャイコフスキーはこの交響曲が書けたからこそ自分への不信や疑念が払われて、この後に「ハムレット」や「眠れる森の美女」も書けた。
第4番以降、自信が持てなかった10年間から解放されるひとつのステップになった交響曲になったのではないかな、と思います。
そして自分にとっては、このチャイコフスキーの交響曲第5番は、今回が日本での初めて演奏となります。
もともとすごく演奏したい曲で、ずっとやりたいと言っていたのですが、なかなかタイミングが合わなくて…。
今回やっと希望が叶うので、とても楽しみにしています。

【公演情報】

〈フレッシュ名曲コンサート〉読響×原田慶太楼×小井土文哉
2021年1月30日(土)14:15開場/15:00開演
※公演当日14:30から、大ホールステージで読響メンバーによるミニ・コンサートを開催。
〈指揮〉原田慶太楼
〈ピアノ〉小井土文哉
〈管弦楽〉読売日本交響楽団

【曲目】
ロッシーニ:歌劇「セビリアの理髪師」序曲
グリーグ:ピアノ協奏曲 イ短調 Op.16
チャイコフスキー:交響曲 第5番 ホ短調 Op.64

★LIVE配信決定!
ライブ配信:2021年1月30日(土)15:00開演(14:45~配信開始)
アーカイブ配信期間:2021年2月2日(火)~2月14日(日)23:59
チケット料金:1,000円 (1/13~GoToイベント対象:800円)
販売サイト:TIGET (オンラインのみ)<配信チケット発売中>

公演詳細 https://www.persimmon.or.jp/performance/sponsored/20200801104704.html

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